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シャムキャッツ

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大塚智之 (Bass&Chorus)、菅原慎一 (Guitar&Vocal)、夏目知幸 (Vocal&Guitar)、藤村頼正(Drums&Chorus)

写真:奥山由之(band) 文:菅原良美

INTERVIEW

シャムキャッツ

ストーリーがメロディをまとって、暮らしの隙間に入ってくる。外を歩きながら聴くと、歩幅を合わすようにすぐ隣で鳴る。シャムキャッツのニューアルバム『AFTER HOURS』は、前作『たからじま』で表現したオルタナティブな勢いや佇まいとは少し離れた場所から響く、メロディアスな平熱のロックンロール。さりげなく優しい“気配”のある曲たちは、自分がいつも目には見えないなにかと関わりながら存在していることに気づかせてくれる。
活動開始から、約7年。「愛しか知らない僕たちっ!」と歌ったあどけない4人が、同じ方向を見てつくりあげた『AFTER HOURS』。バンドがじわりじわり変化していることを教えてくれるこの名盤は、どのようにして生まれたのか。その背景についてメンバー4人に聞いた。

ーー『AFTER HOURS』は、日常のワンシーンを切り取ったようなイラストが並んだジャケットが印象的ですね。これまでのシャムキャッツにはない、コンセプチュアルな作品になっているんだろうなと。

夏目知幸(以下、夏目) 先行シングル「MODELS」のアートワークをサヌキナオヤ君にお願いしていて。最初からアルバムのビジュアルイメージも共通したものにしたいと思っていたんです。「MODELS」のアートワークがすごくいい感じになったから、この良さをいかしつつアルバムとリンクさせるにはどうしたらいいかなと考えて。それなら「MODELS」をアルバムのアートワークのひとつに入れて、ほかの絵もたくさん並べたらどうだろうというアイデアが浮かんできたんです。俺が全体のディレクションをして、サヌキ君に絵を書いてもらいました。

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ーー「MODELS」がアルバム全体をひっぱっていったんですね。

夏目 そうですね。歌詞を書く時、一曲ずつ主人公とかシチュエーションを紙に書いて並べて、ひとつずつ絵を描くように歌詞も書いていたから、ジャケットにもそのイメージをそのまま反映させようと思っていました。今回は、ジャケットをふくめて、トータルでひとつの作品にしたかったので。聴いてくれた人の頭の中でどんどんストーリーができていって、ひとつの街ができあがっていくような仕掛けをしたつもり。たとえば、「AFTER HOURS」には、“高速道路の横で息を吐く”って歌詞があるんだけど、「MODELS」に出てくる夜走りのトラックが走ってくるのは、その高速道路の上で、もしかしたらその主人公が住んでいる近くに「FENCE」の14階立てマンションがあるかもしれない。そのマンションの敷地の端っこに「MALUS」に出てくるコンビニがあって......そういう風に、一曲ずつのイメージが絡んで、ジャケットの絵を見た時につながっていけばいいなって。

――そういったコンセプトは、バンド全体で共有しながら作っていったのですか?

菅原慎一(以下、菅原) そうです。俺の曲も最初に自分で書こうとしていたものから、コンセプトをふまえて徐々に変えていって。曲を俯瞰して見た時にアルバム全体の物語のひとつのピースになれればいいって意識で完成させました。今までは、こうやってコンセプトを明確にしていくような見せかたをしてこなかったから、すごく新鮮でしたね。こちらの意図や意識をここまで具体的に伝えなくてもいいなって思っていたけど、今回は特に説明しなくても、感じ取ってもらえるようなものになっていると思います。

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デコラティブに進化していくこと

――その“わかりやすさ”が、答えを限定するものではなくて、曲のイメージをふくらませたり、聴く人それぞれのシチュエーションを選ばないものにしているのがおもしろいなと思ったのですが、今作のコンセプトはどういうところから生まれてきたのですか?

夏目 『たからじま』を出してライブを重ねて行く中で、オルタナティブな音を演奏することにちょっと飽きてきた感じがあって。その頃、ツアーの移動の車で、アズテックカメラのファースト(『High Land、Hard Rain』)が流れていたんです。ギターがじゃかじゃか鳴っていて、ビートが強い。ドラムは速いリズムを叩いたりもするし、ベースはポストパンクにしては、すごく自由に動く。その音を聞きながら、次にこういう感じをシャムキャッツがやったらすごく合いそうだなって思って。そんな話しをしていたら、藤村もいいねって。

藤村頼正(以下、藤村) そうですね、こういう演奏のバランスで音が作れたらいいなって。

夏目 日本のロックバンドってどんどん洗練されていってシンプルな音になっていくことが多いなと思っていて。たとえば、フィッシュマンズ、ゆらゆら帝国、オウガ・ユー・アスホールとか。すごく好きだし、カッコイイんだけど、そうじゃない進化を自分たちなりに見つけていきたかった。ディレクターの柴崎さんからも言われた“デコラティブ”っていうキーワードがあって。装飾していく中で、進化していきたいと思うようになったんです。音のバリエーションが豊かでボリュームもありながらキラキラ鳴っているアズテックのサウンドにそのヒントがあったのかなって思う。

ーーたしかに最初に聴いた時なんとも例えようのないなつかしさを感じました。それってこの80年代の音像がヒントになったっていう流れもあるのかも知れないけれど、時代を懐古するのではなくて。すごく個人的に印象に残っている記憶がうわっとよみがえってくるような感触。その時間軸は中学校の帰り道から、昨日の晩ご飯のことまで関係なく。そう思うと、今作のコンセプチュアルな作りが、作品全体の間口を広げながらも、その裏にある背景やムードをすごく大切ににおわせているような気がして。それって、ファーストアルバムの『はしけ』に収録されている「魔法の絨毯」とか「忘れていたのさ」を最初に聴いた時もそうだったなと思い出したんですが、今作に通ずる部分はありますか?

夏目 『はしけ』の時は、曲を作ることが目的でスタジオに入って、ただ曲を楽しんで書いていたんです。その延長で作品になっていったから、ライブをすることを全然考えていなくて、自分たちがおもしろいなと思う曲を盤に定着させていくって作業をしていただけだったから。

菅原 この4人で音楽を作るってことが自然とそういうことだったから、そのやり方しか知らなかった。だから、自分たちがライブハウスシーンで活動することも想像してなかったですね。

夏目 でも、音源を出すと、自然とそういうシーンに所属することになって。これまでライブをイメージして作ってこなかったら、そこからずれや迷いが生まれてきた。そんな中でも“なんとかやってきたぞ ”っていうのを『たからじま』で出した感じ。だから、『たからじま』はライブでどう表現するかっていうことが前提になっているアルバムなんです。でも、そういう作り方をしてみて、自分の中でちょっと失われたものもあるなと思っていたことがあって......それは、シャムキャッツのいいところ。ライブでの表現は、強く良くなっていったけど、自分たちがもともと持っているメロウさとか、やわらかさみたいなものが抜け落ちてしまったような気がして。だから今作は『はしけ』の良さと『たからじま』の良さをどっちも持って、歌詞の世界や音像は、ちゃんと人の隙間に入り込んでいくようなものにグレードアップさせたいと思った。バンド全体でも、今までと同じではダメっていう共通意識があったから、自然とそういう方向に向かっていったのかもしれないですね。

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自分を表現するのではなく、作品を表現する

――『たからじま』以降、みんなそれぞれソロ活動もはじめていますよね。ソロ音源を作ってライブをしたり、別なバンドのサポートに入ったり。そういった期間を経て、また4人が集まって新しい音楽を作るのは初めてのことだったと思います。その期間が自分自身やバンドに影響をあたえた事はありますか?

夏目 おおいにありますね。ソロは本当に個人的なもので、すごく無責任に自由に作っています(笑)。そうやって歌詞も書いていると、すごくぐっとくるものがあったりして。自分だけが理解できればいいやっていくくらいの気持ちでいるんだけど、聴いてくれた人の反応も良かったり、周りも応援してくれていて......「あ、これでいいんだ」って思って。だから「今回も自由に書いちゃえ!」って(笑)。

――(笑)。その心意気で『AFTER HOURS』の歌詞を書いてみてどうでしたか?

夏目 好きに書いてやれ!と思ったら、案外わかりやすい歌詞になった(笑)。今回はストーリーが書きたかったので、それでいいんですけど。

――藤村さんは、どついたるねんのサポートでも大活躍していますが、その影響は......

藤村 いやあ、単純に速い曲ばっかり叩いていたから。速い曲叩けるようになったなって(笑)。

夏目 あんまり速い曲入っていないけど(笑)

菅原 「PEARL MAN」のハイハットのキレがやばいよね。

藤村 技術的な面で影響はあるかもしれないけど、このアルバムに関して個人的にやりたいことは割と抑えてますね。それより、大きな会場で演奏したら楽しそうだなってものにしたい。それしか考えていなくて。そういう作品になってくれたらいいなって。

菅原 それはすごく分かるよ。藤村さんはずっと昔から大きな場所で演奏するっていう意識をもっていたから。

藤村 小さな場所で自分たちだけで楽しくやるなら、もちろん好きなようにやるんですけど。大きな会場に立ってたくさんの人たちの前でこういう曲たちを演ったら、感動的な瞬間がありそうだなって思えるプレイをしました。実際にできているかどうかは分からないけれど、確実に良い方向に向かっているなと思っています。

大塚智之(以下、大塚) 大人になったね(笑)。僕はそんなに変わった部分はないんですけど。見ていて一番変わったと思うのは、菅さんかな。前作から曲も書きはじめて歌って、それ以降ソロもはじめて。今回スタジオで曲作っている時、めちゃくちゃ口を出すようになったよね(笑)、これまでも意見を言うことはあったけど、その量が全然違う。

菅原 多分5倍くらいになりました(笑)。

大塚 それにつられて自分自身も意見を言いやすくなったかな。

菅原 俺は前作が出てから曲をたくさん作っていたから、次のアルバムではもっと自分の曲を入れてもいいのかもしれないって思っていました。それぐらい作品を引っぱっていきたいなって。でも、いざ制作に入ると、これまでになくコンセプチュアルなものを作ろうって流れになったから、自分から引いてみるようになった。それは作っていくうちにどんどん強くなっていった感覚で。“シャムキャッツの作品を作る”という全体像を見て、自分がどういう曲を作るのがよりよいか考える。そうやって一歩引いてみながら、全体像の中で自分のポジションに入っていくというのは初めてだった。

夏目 それは、全員に言えることかもしれないね。個々が引いているように見えるんだけど、曲への貢献度は上がっている。俺もコンセプチュアルなものを作るっていうプロデューサーとしての意味で我はすごく出したけど、オリジナリティとか、個人的に良い・悪いっていう視点はすべて捨てた。

大塚 そうだね、だからすごく作りやすかった。

菅原 うん。自分を表現するっていうよりは、作品を表現することを考えているから、作品自体に判断基準があって。それって一歩ひいてみないと分からないと思うんです。でもただ単に楽しい感覚とも違って。やるべきことをこなしていく“仕事”みたいな感じかな。〆切りがあって、それに間に合わすために睡眠時間を削って必死にやって。朝起きたら「よし仕事に行くぞ!」って。そういう......つらさみたいなものも伴ってくる作業だった。

夏目 そうだねえ。だからドラミングもギタープレイも、ベースも、歌詞もすべてひとつのアルバムを作ることに集中した。そうなってくると、自由なだけじゃなくて限定されることがあるから、これまでの手癖ではできない。歌詞も癖で書くようなものを排除して、新しい感覚で書いていくことが重要だったし。だから今回は、レコーディングに入る段階で曲をぎちぎちに決めない状態で入るのが一番いいと思っていて。自分たちの癖が入り込めないように、フレッシュな音を作ることをすごく意識したんです。そこから引き出されたものはそれぞれあるんじゃないかな。

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――それぞれの奏でる音が、これまでになくひとつのメロディ・言葉に向かっていっているなと感じた背景が、すこしだけのぞけたような気がします。4月からはいよいよツアーもスタート! 全国各地で『AFTER HOURS』がどう鳴るのか、すごく楽しみです。

大塚 アルバムの曲はライブで演奏するのが楽しい曲ばっかりなんですよね。

夏目 今は、ライブで演奏するために音に血を通わす作業をしているんですけど、すごく楽しい。まだまだやれることは多いなって感じているから、意識はすごく高くもっていますよ。

菅原 普段なかなか行けない場所に行けるのもすごく楽しみ。札幌とか福岡とかね。ツアーは本当に楽しいから。

ーーすでにライブでもアルバムの曲を演奏しはじめていますよね。中でも「MODELS」は、会場のムードをひとまとめに引き寄せるようなアンセムになっているなと感じました。つい、一緒に歌いたくなっちゃうし。

夏目 「MODELS」は、ライブで演奏するたびに良くなっている。この曲が、フレーズによってコードをつけた人がメンバーそれぞれ違って、それを合わせていったんです。間奏もセッションで作っていったし。スキャットも最後にぶっこんだ。その生な感じがよく出ているし、すごくバンドらしい、4人らしい曲になっているから。

菅原 今までで一番、4人それぞれが一緒になってこねくり回して作り上げた曲。

夏目 すべてが今までで一番いいと思います。アンサンブルも歌詞も。

ーー6月5日のツアーファイナルは、渋谷クラブクアトロ。超満員のお客さんの中で聴くのを想像するだけでワクワクします。多分みんな歌っちゃうんじゃないかな。

夏目 合唱するんだ(笑)。うん、クアトロの時は、もう「いいとも!」も終わっているしね。楽しみにしていてください。

INFORMATION

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『AFTER HOURS』 シャムキャッツ
¥2,400|P-VINE

シャムキャッツ/夏目知幸 (Vocal&Guitar)、菅原慎一 (Guitar&Vocal)、大塚智之 (Bass&Chorus)、藤村頼正(Drums&Chorus)によるロックバンド。2007年頃から活動開始。2009年に1stアルバム『はしけ』でCDデビュー。その後、自主レーベルから3作連続デモシリーズ、シングル「渚」「サマー・ハイ」、ミニアルバム『GUM』を、2012年にP-VINE RECORDSより2ndアルバム『たからじま』をリリース。2014年、1月に限定シングル「MODELS」(即完売!)。3月19日に発売したアルバム『AFTER HOURS』が好評発売中。 siamesecats.jp

〈AFTER HOURS release tour〉
4.11(金)福岡ROOMS
4.12(土)広島4.14
4.18(金)岡山YEBISU YA PRO
4.19(土)京都METRO
4.20(日)今池得三
4.29(祝・火)札幌SOUND CRUE
5.4(日)仙台PARK SQUARE
5.23(金)梅田Shangri-La
6.5(木)渋谷CLUB QUATTRO  ※全公演チケット発売中